三竹産業革を洗う。
かつての禁じ手を武器に変えた老舗
1925年に浅草で創業したベルトの名門老舗、三竹産業。
往時のモノづくりを次代につなぐため、満を持して立ち上げたのがオリジナルブランド、アナック。
ファンの裾野は着実に広がっている。
2014年発行 「日本の革 7号」より
ウォッシャブルレザー。その名のとおり、洗いをかけたレザーは長年ともにした愛用品のように、くったりとした、えも言われぬ表情を浮かべる。
神士において新品が気恥ずかしいときがある。いい歳していまだワードローブが定まっていない、ということを露呈してしまうからである。革製品は買ったときはまだ未完成であり、使い込んではじめて完成するといった人がいたが、使い込んだ革の風合いに惹かれるのは、脂の乗った紳士に限らない。
ブームになればなるほど、本音でいえば「育てる」楽しみを放棄しているなぁと思わないでもなかったけれど、ユーザーのニーズを真摯に受け止めたつくり手の姿勢は高く評価すべきだし、実際のところ、よくできていた。だからこそブームになったのだが、これに先鞭をつけたのが、三竹産業だった。若き三代目、麻生和彦さんはいう。
「取引先から、こなれた感じってできない?って聞かれて。タンナーさんに相談したら、濡らしたらどうだろうと」
水は革にとって御法度の時代である。しかし麻生さんには別の思いもあった。下請け商売はどうしても価格面で妥協せざるを得ない。職人技を次代につないでいくためにオリジナルの開発は急務だった。その革は、武器になるかも知れない――。
栃木レザーからヌメ革を仕入れ、黴びず、ひび割れないレシピを一から検討していく。失敗に失敗を重ね、そうして数年の試行錯誤を経て、完成した。
手裁ちにはじまる職人仕事。鉋などの古き良き工具。かつて当たり前にあったモノづくりを遺憾なく発揮したアナックは時代感に応えるウォッシャブルをまとい、力強い歩みでファンを増やしている。
アナックは鉋(=kanna)のアナグラムである。
洗いをかけたレザーのその風合いに加え、透き通るような色味もアナックの強みである。手打ちの賜物であるランダムなスタッズ、ほつれにくさを生んだ立体構造のメッシュも見逃せない。
かつて住み込みの職人が寝起きしていたビルの一階を改装し、2013年にオープンした直営店。黒光りする床など往時の部材がそのまま残る店内は味わい深い。ベルトを飾った什器はもともと、ヨーロッパで工具入れとして使われていたもの。全商品がみたいというファンに応えたその店は会社の真向かいにある。(リニューアル準備中)